最近はメールやSNSで済まされることが多くなった時候の挨拶。実際には一年で一番暑いこの時期にも、残暑見舞いのハガキには「暦の上では秋ですが」というおなじみのフレーズが書かれていたものです。
そのころと違い、温暖化や異常気象の影響で、毎年のように観測史上最高気温が更新されるなど、近ごろは立秋の8月7日頃に秋を感じることはほとんどないと感じている方も多いのでは?
また、エアコンの普及のおかげで快適に過ごすことができる現代の生活では、季節の変化を感じることが少なくなっているのかもしれません。
そんな中、季節が変わっても真夏と同じような生活習慣を続けていると、知らず知らずのうちに身体に負担をかけてしまうことになります。
暑い夏の終わり、少し涼しくなりはじめた頃、食欲がない、身体がだるい、眠れない…など、暑さが和らいだのに「夏バテ」と似たような不調を感じるようです。これが最近注目されている「秋バテ」、「秋の不調」です。
暑い盛りと思っていても、立秋を過ぎれば朝晩には涼しい風が吹いて意外と冷え込む日もあり、秋の気配を感じることも。季節の変わり目は気温の変化が大きくなるので注意が必要です。
また、夏の終わりから秋口は、台風の到来や秋雨前線の影響で、気圧の変化が大きい季節と言えます。こうした気圧や気温の変化は、自律神経の乱れを引き起こします。寒暖の差が繰り返されると、汗をかいたり血管を広げたり縮めたりして、体温を一定に保とうと、わたしたちの体には大きな負担がかかるからです。いわゆる「秋バテ」とは、こうした季節の変わり目の、気温や気圧の変化からもたらされる身体の不調とも言えます。
薬膳料理では、季節ごとに起こりやすい身体の状態に合わせて、食材の特性を活かして調理します。秋に起こりやすい不調としては、「血虚証(けっきょしょう)」と「亡津液証(ぼうしんえきしょう)」というものがあり、栄養や潤いが不足することで皮膚や頭皮の乾燥や便秘になりやすいとされます。「血を補う」食材や「水を補う」食材を使い、少し身体を温める調理法が、この時期のおすすめだそう。
そもそも薬膳とは特別なものではなく、普段から食べている家庭料理でも食材の組み合わせで誰でも簡単に作ることができるものです。旬の食材を上手に取り入れて「秋バテ」を乗り越えましょう。
たとえば、6月から10月が旬と言われる「鰯(イワシ)」はいかがでしょう?マイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシと、種類や産地にもよりますが、秋はどの種類も脂のりが良いと言われます。お刺身や握りずし、なめろうと、生で食べるのはもちろん、煮たり焼いたり、寒くなればつみれ汁にしたりと古くから日本人に愛されている「鰯(イワシ)」。
薬膳では「気を補う」「温・微温性」の食材とされますが、カルシウムが豊富で、皮膚や粘膜を守る働きがあるビタミンB2も多く含んでいます。口内炎や風邪のひきはじめなどに心強い味方となってくれる秋の味覚と言えるでしょう。
また「無花果(イチジク)」は、薬膳では「水を補う」食材とされる秋の果物です。江戸時代に日本に入ってきた当時は薬用だったとか。完熟の甘い果実は、そのまま食べてもおいしいですし、塩気のある生ハムやチーズなどとも相性抜群なので、サラダやオードブルでも楽しめます。
まだまだ暑いと思っていても秋の足音は少しずつ。「秋バテ」も、病気になる一歩手前の状態=「未病」です。まずは真夏のままのエアコンの設定温度を見直してみませんか。そして、旬の食材を取り入れて身体の内側から整えていきましょう。秋は実りの季節です。日々の暮らしを見直して、自然の恵みで「未病」を改善しましょう。